Webサイト(ホームページ)制作における著作権について
まとめてみました

こんにちは、taneCREATIVEの「ちほうタイガー」です。

今回は同業者も含めて意外に明確に理解していないWebサイト制作に関する著作権について、まとめを発信してみたいと思います。

なぜ今更“著作権”なのかと言いますと、最近頻繁にWebサイト(ホームページ)の保守・管理を引き継いでほしいと言ったご相談が当社にありまして「Webサイト・ホームページの保守管理・運用サービス」についてはこちらをご覧ください。その大半はほぼ問題なく引継ぎを完了できるのですが、稀に「著作権の関係でコンテンツを引き渡すことはできない」と制作者に言われる場合がそれなりにあり…そのうち更に稀な割合ではありますが、制作会社である当社から見ても「流石にそれは…」というケースがあるからなのです。

そこで、まさにWeb制作会社である当社の方から、引継ぎ時に伺ったクライアント側の視点も交えて「Web制作における著作権」について、当社の顧問弁護士である阿部・楢原法律事務所の阿部弁護士の監修も頂きながら、まとめてみたいと思います。

「著作権」とは?

著作権とは、著作権法によって、「著作物」を創作した「著作者」に与えられる権利のことで、「著作者」の財産的利益を保護する【著作権(財産権)】と「著作者」の人格利益を保護する【著作者人格権】からなります(著作権法第17条)。

著作者財産権は、「著作物」から生じる財産的利益を保護する権利で、通常「著作権」と言えばこの著作権(財産権)のことを指します。財産権ですので他人に譲渡することが可能です。

一方、著作者人格権は、「著作者」の人格を保護する権利で、例を挙げれば、小説を勝手に改変されない権利(同一性保持権)などが具体例です。「著作者」に属人的な権利ですので他人に譲渡することができないとされています。

まずは、著作権には著作権(財産権)と著作者人格権の二つがあり、前者は譲渡できるが、後者はできないことだけ理解して頂ければ大丈夫です。

著作権 著作権(財産権) 譲渡できる
著作者人格権 譲渡できない

著作物の定義とWebサイト(ホームページ)の著作権

次に、前述のように著作権は、「著作者」に与えられる権利なのですが、「著作者」とは「著作物」を創作した人のことを指します(著作権法第2条1項2号)。つまり「著作物」に当たるかどうかが著作権によって保護されるかどうかの判断で重要になるわけですね。

「著作物」とは、「思想又は感情を創作的に表現したものであつて、文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するものをいう。」(著作権法第2条第1項第1号)とありますが、Webサイト(ホームページ)における情報設計やデザイン、ソースコードがそもそも「著作物」と言えるのかは、実は非常に判断しにくいのが実情です。

そこで、今回、Web制作業務ごとに生じる納品物毎に「著作物」となりうるか否かについてまとめてみました(ここでは通常のWebサイトを想定して記載し、業務用のシステム開発に関する著作権は別の機会に詳述したいと思います)。

業務名 ディレクション業務
業務内容と納品物 ディレクターがクライアントと打合せをしながら、どのようなサイト構成にするのかを設計し、ドキュメント(サイトマップ、URL設計書、meta情報設計書、ワイヤーフレーム等で構成されます)を作成します。
※ドキュメントは制作会社によって異なります。
著作物と認められるか このようなドキュメントが著作物と認められるかどうかは、第1に、「創作性」の要件を満たすか、第2に、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」にあたるかに、よります。
まず、「創作性」の判断はかなり緩やかで、独創性があるとか、他に類例がないといったことを意味するものではないとされています。また、「創作性」がないことが客観的に明白な場合を除いて、広く「創作性」を認めてよいとする見解が有力であり、実際の裁判でもそのように判断されています。discription等のライティングされたテキストによって構成されるmeta情報設計書や設計者である当社の知識・ノウハウによって左右されるURL設計書、ワイヤーフレーム等は、制作者が誰かによって内容が大きく異なってくるものですので、「創作性」の要件を満たすものと考えられます。
次に、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」については、一般的に、例えば誰かに宛てたごく普通の手紙なども該当するとされており、工業製品などを除外する意味しかないものと考えられています。
したがって、discription等のライティングされたテキストによって構成されるmeta情報設計書や設計者である当社の知識・ノウハウによって左右されるURL設計書、ワイヤーフレーム等は、「著作物」にあたると考えられます。また、ドキュメントの一部分だけを見れば創作性が微妙であっても編集著作物と認定される可能性もありますので、これらは原則として著作物にあたるケースがあると考えている制作会社が多いでしょう。
しかしながら、後述の裁判例(東京地裁平成28年9月29日判決)では、HTMLでさえも「ウェブ画面のレイアウトと記載内容が定まっているときは…誰が作成しても似たようなものになる」と判断されており、そうであるとすれば、前述のドキュメント類も実際に裁判所で判断を受ける際には「誰が作成しても似たようなものになる」として「創作性」なしと判断される可能性も捨てきれません。
また、単なるドメイン情報を記載しただけの書面などであれば、事実を記載しただけの書面となって、「文芸、学術、美術又は音楽の範囲に属するもの」にあたらないと言われています。
このように、ディレクション業務で制作する一般的な資料が著作物と認められるかどうかは明確ではなく、少なくとも資料によっては著作物と認められる可能性はあると理解しておくことが妥当であると思われます。
業務名 デザイン業務
業務内容と表現物 デザイナーは、ディレクターの作成したワイヤーフレームやクライアントの意見・要望を伺いながら、サイトの表示部分をデザインします。
検証 このWebサイト(ホームページ)のデザインが「著作物」と認められるかどうかは更に非常に微妙な問題となります。
ポスターなどの紙媒体のデザインに関する判例ではありますが、裁判例の中には、ポスター等のデザイン,レイアウト,配色,仕上げの各作業に過ぎないものについて、受注者は、発注者らの指示に従って制作しなければならず,少なくとも発注者の意向に反して創作性を発揮することは許されない関係にあったため、「創作的」とは認められないと判示したものもあります(大阪地裁平成24年1月12日判決)。
Webサイト制作に関しても、確かに、レイアウト、配色等について、発注者(クライアント)からの細かい指定があれば、制作側はそれに従わざるを得ませんが、実際には、発注者(クライアント)は細かい指定などはせず、制作側もある程度の裁量をもって、デザインやレイアウト、配色を決めているものが多いと思われます。
また、制作会社が個別に制作したイラストや写真、テキストは、著作物と認められるでしょう。
結局のところ、デザイン,レイアウト,配色,仕上げの各作業のうち、発注者の具体的な指定によるものは著作物とは認められにくく、制作会社の裁量によるものや、制作会社が個別に制作したイラストや写真、テキストは著作物と認められる可能性があると考えておくことが妥当であると思われます。
業務名 マークアップ業務
業務内容と表現物 マークアップエンジニアは、デザインとワイヤーフレームに従ってHTML、CSSをマークアップします。
検証 このHTMLの著作物性に関しては、最近の裁判例(東京地裁平成28年9月29日判決)でも、「HTMLに関しては,教科書や辞典が多数存在し、多くの約束ごとが定められていること、HTMLは,プログラミング言語ではあるが、集計・演算等の処理をするためのものではなく、ブラウザの表示、装飾をするための言語であり、ウェブ画面のレイアウトと記載内容が定まっているときは、HTMLの表現もほぼ同様となり,誰が作成しても似たようなものになることが認められる。」と創作性が否定されているものがあります。
確かに、HTMLは決まったタグの集約で作られており、そのタグの集合体に著作権が認められるとすると、世界のWebサイトはほぼ誰かの著作権を侵害していることになりかねないことから、Web制作会社の目線からも、原則としてHTMLは「著作物」とは認められない蓋然性が高いと考える方が妥当かと思います。

以上のように、Webサイト(ホームページ)の著作物性は非常に分かりにくい点もあるのですが、あえて分類すると、HTMLに著作権が認められる可能性は低いが、その基礎となるドキュメント類や、イラスト、画像、テキストには著作権が認められる可能性が高く、Webサイトのデザイン等についてはケースバイケースと考えておくとよいかと思います。
なお、最終的には個別具体的な事例ごとに、裁判所の判断を仰がないと明言はできないことも付言しておきます。

著作権は誰のもの?

それでは、Webサイト(ホームページ)の著作権は誰のものなのでしょうか。

著作権は著作者に与えられる権利ですから、当然ながら著作権は著作者に帰属します(著作権法17条1項)。
また、この著作権は、何らかの手続きを必要とせず、著作物が創作された段階で自動的に発生します(著作権法17条2項)。

つまり、Webサイト制作の場合ですと、「著作物」と認められる可能性があるドキュメント類やイラスト、テキスト、写真などが創作された段階で、Web制作会社や制作者に自動的に著作権が発生することになります。

そうすると、Web制作を発注したクライアントは、自社のサイトであるにも拘わらず、社内で自由に改変したり、別の業者に引き継がせたり、あるいはWebサイトを自由に譲渡することもできないということでしょうか。

もちろんそんなわけはなく、Web制作の契約書に、著作権譲渡条項と著作者人格権不行使条項を適切な形で入れておくことで上記対応が可能となります。
前述のように、著作者財産権は譲渡可能ですので譲渡条項で良いのですが、著作者人格権は譲渡できませんので、行使しないという条項を入れて対処するのです(条項の書き方は後述します)。

この両条項を入れておいた場合、著作者財産権はクライアントに所属し、著作者人格権は制作者に帰属するけれども、制作者はその人格権行使をできない状態となりますので、クライアントはWebサイトを自由に改変したり、別の業者に引き継がせたりできるようになります。

「著作権を譲渡しないのが当然である」という制作者側の主張は妥当なの?

さて、前述のように、Web制作契約書で著作権譲渡と著作者人格権不行使を契約していれば問題はほぼありませんが、Web制作の現場にいると、しばしば契約書を取り交わすこと自体を怠っている(あるいは忘れている)場合があります。

あるいは、Web制作契約の締結時に制作会社が提出してきた契約書に著作権譲渡条項及び著作者人格権不行使条項を追記することを拒否される場合があります。

そういった際に、発注者はWeb制作会社に対してWebサイトに関わる著作権の引き渡しを要求できないのでしょうか。

当社の見解を、結論から申し上げれば、通常のWebサイト制作案件(オーダーメイドのWebサイト制作案件)において、「著作権を譲渡しない」と主張する正当な根拠は考えにくいことをまず申し上げたいと思います。
また、当社は、本記事を書いている2018年1月時点で約50サイトほど、他の制作会社ないし制作者が制作されたWebサイトの保守管理を引き受けておりますが、その85%程度は(たとえ契約書が無くても)全く問題なく引継ぎを行えていることも記しておきたいと思います。

その上で、それ以外の15%のケースで当社が実際に引継ぎ時にお聞きした「制作者が著作権を理由にWebサイトの移管を拒否する理由」を挙げながら、当社の見解を個別に述べていきたいと思います(理由として根拠が弱いと感じる順にあげていきます)。

Webサイトの移管を拒否する理由①
「今までそんなことを言ってきた発注者は居ない。多くの企業と著作権を譲渡しない契約を結んでおり、トラブルになったこともない。」

【当社の見解】

最も説得的ではない根拠でありますが、意外と多い理由がこちらです。

第一に、法務部を有する企業がクライアントであれば、まず著作権を譲渡しない契約書は通りません。他の企業で問題にされたことが無いというのであれば、大手企業様と直接取引経験が無い制作会社さんなのかなと思うしかありません。

第二に、中小企業がクライアントの場合で法務担当の方がいらっしゃらない場合には、Web制作会社の方で説明責任を十分に果たしておりませんと、クライアント側から著作権を譲渡してくれという話を契約時に出ることは滅多にありません。ほとんどは、この説明不足により、クライアントがリスクを認識されていないから、著作権の譲渡を求められていないケースかと思います。

第三に、引継ぎ時には、大抵の制作会社さんはクライアントの意思を優先して引き継いでくれますので、その場合にはトラブルが顕在化することはありません。逆に引継ぎを断られた場合でも、引き受ける側の制作会社の方で、契約関係をチェックし、著作権は譲渡されていない旨をお伝えすると、大抵は泣き寝入りをされてしまわれますので、やはりトラブルは顕在化し難い状況です(クライアントは疑念を持たれますが、最後だと思って敢えて紛争化しないケースが多いと感じます)。

第四に、仮に、本当に今まで問題が生じなかったとしても、だからといって著作権を制作者に留保する理由にはならないからです(次の例を参照)。

Webサイトの移管を拒否する理由②
「この業界では譲渡しないのが慣習である(あるいは常識である)。」

【当社の見解】

時々聞く説明です。

確かに、Web業界では古くは著作権を譲渡しないという制作会社も多くありました。しかしながら、現在ではそういった制作会社は主流ではないと当社は考えております(読者の皆様もネット上の情報を探せば、「一般的には譲渡してくれる」という情報にいくつも辿り着くと思います)。

どうしてそのような風潮があったのかについては、「映像・グラフィック業界の版権の考え方(後述しますがこちらには正当な理由があると思います)をそのままWeb業界に反映させたのが起源だ」という方もいらっしゃいますし、「昔はHTMLに著作権が認められないと裁判所が明確に判断していなかったため、譲渡してしまうと他の仕事ができなくなるからそうなっていた」という方もいらっしゃいますので、当社の方も正確な回答を持ち合わせておりません。

しかしながら、映像・グラフィック業界の版権とWeb制作では根本的な事情が異なる場合がほとんどだと思われますし(後述します)、デザインやHTMLに著作権が認められないことが、裁判例でも示されていることもあり、著作権譲渡条項を入れても将来仕事が出来なくなるということは考えにくい状況です。

なにより、クライアント側の、「制作の人件費や費用を支払って制作してもらったのに、その制作物の権利が自分たちにないのはおかしい」といったご意見について、「それはそうだよね」と考える制作会社が増えてきているのも大きいと思います。

また、慣習という言葉は実は非常にあいまいですが、そもそもその慣習がクライアントと制作会社の双方が守らねばならないルールとなるためには、「慣習法」と言えるまで定着していなければなりません。ところが日本は成文法国家であって、慣習が守るべき法規範にまで定着するケースは非常に稀です。少なくとも、「Web制作に関する著作権は譲渡しなくてよい」ことが慣習法とはなっていないことだけは明言してよいと思います。

そういった理由により、当社としては、「Web業界において著作権を譲渡しないことは慣習ではないし、ましてや常識でもない」と考えております。

Webサイトの移管を拒否する理由③
「著作権が著作者に留保されるからこそ、著作者は正当な報酬を受ける権利を保有でき、ひいてはクリエイティブな作品を生み出せる。」

【当社の見解】

個人制作者の方が稀に述べられる理由です。

ポイントは、「クライアントが支払ったお金は何に対するものなのか」という点にあると思います。

この記事で前提とされているオーダーメイドのWebサイト(ホームページ)制作案件において、お見積りは、ディレクション業務やデザイン・マークアップ業務などを行う人件費やその他諸経費を見積もったものであると思います。

その形式として、人月や人日といった正に人件費ベースでカウントするやり方もあれば、1ページいくらといった納品物の数量でカウントするやり方もありますが、基本的にはクライアントの要望するものを制作する全てのコストに、得られる利益を加算して計上します。その結果、1サイト数十万円~数百万円かかったりするわけですね。

そのような一般的なWebサイト制作のケースであれば、「著作者の正当な報酬を受ける権利」とは正に初期制作費用を受け取る権利の事を指しているのではないでしょうか。
著作者として得るべき利益を得ているのに、それでも著作権は制作者にある、という極々一部の制作者の論理には当社は賛成しません。

一方で、映像業界やグラフィック業界のように、著作権を譲渡しない代わりに対価を抑えるという業界もありますので混同しないことが重要です。すなわち、最初から対価の対象が著作権そのものではなく、著作物の使用料である場合です。

最近でこそテクノロジーやツールの発展により映像制作のコストも大分安くなりましたが、一昔前は非常にお金のかかるものでした。
この場合、「映像制作会社が映像制作を請け負う際に著作権を留保し、それを将来別の作品などに使いまわしたりすることで、映像制作の初期制作費を抑える」といった、いわゆる業界での知恵が存在していたと聞きます(逆に、全てのコストと十分な利益を制作費用で頂ける場合には、著作権を譲渡されることもあるそうです)。

こういった論理は、クライアントにもご理解いただける論理かと思いますし、そうやって映像制作業界やグラフィック業界は良質なコンテンツをできるだけ安価に生み出し続けてきたという事情があるようです。
ストックフォトサービスなどは正に著作物の使用料といった認識が定着していますよね。使用者側である当社も安く良いコンテンツを利用できるので嬉しい限りです。

ところが、オーダーメイドのWebサイト制作の場合、クライアントの為だけに設計・作成したドキュメント、ワイヤーフレームやイラスト・テキスト等の、著作権が認められる可能性の高いコンテンツを、クライアント以外のサイトに使いまわすケースは非常に考えにくいのです(オーダーメイドではなく、テンプレート提供サービスやWebサービスは、後述のように例外としてあります)。すなわち、著作権を留保して使いまわすことで、クライアントにもメリットを提供できるような業態ではなく、クライアントも納得できる著作権を留保すべき特段の理由は見当たらないと言えます。

以上より、私たちは、十分な初期制作費を頂いているのであれば、著作権をクライアントに譲渡しても正当な対価を頂戴していますし、その中でしっかりとクリエイティブなサイトを作るべきであると考えております。

Webサイトの移管を拒否する理由④
「CMSやイラスト・画像など、他に権利者がいる以上勝手に著作権を譲渡できない。」

【当社の見解】

確かに、一見すると説得的な根拠に見えますし、実際に一理あると考えます。

最近のWebサイトは、ストックフォトの写真やイラストを利用してデザインすることがほとんどですし、第三者が制作した有償無償のテンプレートを利用して制作するパターンが多いと感じます。またCMSについてはwordpressのようなオープンCMSであれ、クローズドなCMSであれ、制作会社以外が開発しているCMS自体やプラグインを利用して開発している以上、これらの著作権を勝手に譲渡することはできないという点についてほぼ異論はないでしょう。

しかし、だからといって、制作会社がクライアントの為に費用をもらって制作した著作物の著作権まで譲渡できないというわけではありません。
クライアントの為だけに作成されたドキュメント類や、イラスト、画像、テキストには著作権が認められる可能性がありますから、これらの制作に関して十分な対価を受けている場合には、著作権を譲渡しておくことが社会一般の感覚に即していると考えられます。

Webサイトの移管を拒否する理由⑤
「当社ではテンプレート化やシステム化しており、その使用権を提供しているだけなので初期費用を安くしている。」

【当社の見解】

理由としてもっとも説得的であると考えます。

前述のように、映像などの世界では、著作権を制作会社に留保することで初期費用を抑えるというやり方がありました。Web制作においても、テンプレート化されたHTML,CSSや、システムで一定のページを生成する場合などには、これらの手法に十分な理由があると考えられます。
制作費用の対価に同テンプレートやシステムの開発費が含まれておらず、その分安い使用料とすることで初期費用が抑えられている以上、テンプレートやシステムの著作権を譲渡しないのは正当な理由があると考えやすいと思います。

もっとも、クライアントの為だけに作成されたドキュメント類や、イラスト、画像、テキストで、初期費用で制作費を受領した著作権については別途譲渡及び不行使条項を設けておくこともできることも付言しておきます。

Webサイトの移管を拒否する理由⑥
「リースですので譲渡できません。」

【当社の見解】

いわゆるWebサイトというソフトウエアをリース物件とするファイナンス・リース契約の特性上、著作権はユーザー(クライアント)に譲渡されません。
Webサイトの代金は、リース開始時に、リース会社からサプライヤー(制作会社)に全額支払われ、代わりにリース会社はWebサイトの(主にソフトウエアを記録したメディアや説明書の)所有権、知的財産権、その他一切の権利がリース会社に譲渡され、Webサイト代金と取引に要した諸費用のおおむね全部を複数年月のリース料で回収する契約モデルだからです。

したがって、リース契約を利用されており、それを理由にされた場合には、諦めて頂いて全リニューアルをされる方が建設的であると考えます(当社は、クライアントからのオーダーが無い限りリース契約はお勧めしません)。

著作権譲渡条項の記載例

さて、色々と個別に検討して参りましたが、結局のところ、著作権譲渡、著作者人格権不行使について契約していない場合で、かつ制作会社さんが著作権を主張されたケースにおいて話し合いにて解決しない場合には、制作会社さんの主張を飲まざるを得ないことになります。
そうならないために、契約書に記載しておくべき著作権譲渡、著作者人格権不行使条項の一例をご紹介しておきます(阿部楢原法律事務所、阿部弁護士チェック済み)。

凡例:甲→クライアント、乙→制作会社

第〇条(権利の帰属等)

1 乙が、本件業務の遂行過程において作成し、甲に提出した以下の写真、文章、デザイン物、プログラム、その他の著作物(以下、「本件成果物」という。)に対する著作権(乙が保有する著作権に限る。また、著作権法第27条及び第28条に規定する権利を含むものとする。)は、甲より乙に対する本件WEBサイト制作業務の費用が全額支払われた時点で甲に対して譲渡されるものとする。

(1)本件業務によって新たに撮影した写真データ及びそれを加工した写真データ

(2)本件業務によって新たにライティングされた文章

(3)本件業務によって翻訳された文章

(4)前3号の情報により組み合わされたデータベース

(5)本件業務によって制作されたデザイン物の内、創作性が認められ著作物と認められるもの

(6)本件業務によって制作・開発されたソースコードの内、創作性が認められ著作物と認められるもの

2 乙は、前項の著作物に関し、甲に対する著作権譲渡以後、著作者人格権を行使しないものとする。

3 乙が保有しない著作物で、本サイトに使用されるものに関しては、乙は甲の指導に従いながら適切に著作権者からの使用許諾を取得するものとする。

 

毎度恒例の…既存のWeb制作会社さんに優しい対応をお願い致します。

当社では、Webやシステム案件に強い阿部楢原法律事務所の阿部弁護士にフェアな契約関係について定期的に指導を受けており、(面倒なことに)代表取締役がロースクール卒であることから、ディレクターは行政書士や知的財産管理技能士といった国家資格を保有することが推奨されています。
そういった(非常に)特異な環境にあるため、本コラムの内容程度の情報・理解は当社内部では大体共有されているのですが、そこまで徹底している制作会社は、客観的に見ると…例外的なのかもしれません。いえ、おそらく相当例外的だと思います。

Webサイト制作は、本当に単価も安く仕事も厳しい業界で、日々納品物に追われる中で、知的財産権の勉強を別途積める時間は本当になかなかありません!(心の叫び)。
そうなると、どうしても職場等で教わった「業界的にはあたりまえ」という理屈を信じ込んでしまっているのも理解できたりします。

皆さんの利用されている制作会社さんが、「ただ知らないだけ」ということも十分にありうる業界であることはご理解いただき、やさしい目をもって制作会社さんに接して頂けますと幸いです。

この記事を書いた存在
ちほうタイガー

taneCREATIVEに所属する謎のトラ。