FinTech最前線 ~金融業界がWeb制作会社に求めること~

本記事は「WEBプロダクション年鑑(2020)創刊20年記念号」に特集として掲載されたものであり、出版元である株式会社アルファ企画様の承諾を頂いてコラムとして公開しているものになります。

 

株式会社エー・ソリューションズ代表 荒木 幸男 × taneCREATIVE株式会社 代表 榎 崇斗

2015年頃から良く聞かれるようになってきたFinTech(フィンテック)。Web制作会社に所属する方々もなんとなく使っている方も多いのではないでしょうか。
今回は、最もWeb制作業界と馴染みの深いFinTechである「クラウドファンディング」のシステムを提供する株式会社エー・ソリューションズの荒木代表と、多くのクラウドファンディングサイトを手掛けてきたtaneCREATIVE株式会社の榎代表に、クラウドファンディングとWeb制作会社に求められる資質について語り合ってもらいました。

FinTech=クラウドファンディングディング ではないが……。  

榎 いつもお世話になっております。今日はどうぞよろしくお願い致します。早速ですが、今回アルファ企画さんからFinTechをテーマに巻頭特集をお願いしたいと言われたときに、私の中で真っ先に荒木社長が思い浮かびました。FinTechにも色々ありますが、どうしてもWeb制作会社から見るとFinTechの代名詞と言えばクラウドファンディングサイトが思い浮かびまして……。そうするとエー・ソリューションズさん以外にないかなと(笑)。

荒木 Web制作会社ではない当社をお呼び頂きありがとうございます(笑)。私のような者でお役に立てるかはいささか自信が御座いませんが、私のキャリアが金融関係を中心に置いているものではありましたので、精いっぱい務めさせていただきます。確かに、FinTechにも色々ありますよね。ちょっと前でしたらBitcoinのような暗号通貨がFinTechとして世間を賑わせましたし、今ならPayPayのような決済ペイ・送金関係もFinTechの例として良く聞くようになりました。ただ、おっしゃる通りソーシャルレンディングであったりクラウドファンディングといった分野がFinTechの典型例だと考える人は多いでしょうし、Web制作会社さんが関係するとなれば、こういったサイトの制作チームとして関わられるケースがイメージしやすいかもしれませんね。

榎 エー・ソリューションズさんのクライアントをWebサイトで拝見しますと、錚々たる金融系企業さんが並んでおられますし、ここに掲載できないクライアントをお持ちであることも存じ上げております(笑)。
今日はせっかくですので、こういったFinTechのクライアントである金融系企業さんが、どういった点をWeb制作会社に求めているのかもお聞きしていきたいと思います。

荒木 当社の内情を熟知しておられるようで恐縮です(笑)。公開しているクライアントさんの全てがクラウドファンディングの案件と言うわけではございませんが、手前どもがシステムの開発・提供をさせていただいている関係からFinTechのクライアントが非常に多くいらっしゃることは間違いないと思います。ですから金融系の企業さんがWebでFinTechのサービスを始める際に見ているポイントについては少しばかりですがお話しできると思います。

どういう基準で Web制作会社を選んだのか?

榎 エー・ソリューションズさんとのお付き合いは2017年頃からだったかと記憶しております。それから当社がフロントエンド、御社がバックエンドとコンビを組ませて頂いて、毎年に数件のフィンテックサイトに携わらせていただきました。そういえば最初の案件はSOLDOUTさんのご紹介でしたっけ?

荒木 そうですね。偶々なのですが私が母校の中央大学ビジネススクールの授業で講師を務めさせていただいたことがありまして、SOLDOUTの萩原社長がその時の学生さんでして……。良いフロントエンドチームを探してもなかなか「これは!」と思う会社さんが見つからなかったので、もうコネ作戦しかないと(笑)。それで萩原社長にお会いした際にオススメの制作会社さんを紹介してくれとお願いしました。

榎 それは大変光栄であります(笑)。しかし、当時の当社は金融関係の実績を有しておりませんでしたが、どういうところが「これは!」に当たったのでしょうか?

荒木 金融関係は非常に特殊な業界ですし、信用力が最も大事です。そういう意味では金融関係のサイト制作の実績はやはり重視するところです。しかし最も重要なところはやはりその企業が誠実であること、コミュニケーションが取れること、勤勉であることなどがポイントになると思います。とりわけFinTechといっても金融業者ですから、ある意味では規制業種に位置づけられます。具体的には業務理解力は勿論ですが、理解するために実直に努力くださること、また、それらに基いた会社そのものの信用力並びに技術的な信用力というのは必要不可欠になりますね。

金融関係の仕事を請けるために必要な 業務理解と技術的な信用力とは?

榎 その点では私どもは合格点ということで理解して宜しいのでしょうか(笑)。ありがたいことに、これまでに複数の金融系企業さんのプロジェクトをご一緒させていただきました。

荒木 勿論です(笑)。先程もお話したのですが、規制業種である以上、セキュリティ面を始めとして、コンプライアンス、レギュレーションなど、さらに言えばワーディングひとつにもルールが適用されます。複数のプロジェクトをご一緒させて頂き、そのあたりの土地勘といいますか、逆にご提案を頂くこともありましたよね。

榎 今だから言えますが、最初のプロジェクトは相当緊張しましたよ(笑)。複数のプロジェクトに携わらせて頂く中で、キーとなるイメージは掴めてきたような気がします。やはり経験値も大切なんでしょうね。ところで、この特集記事はアルファ企画さんから、Web制作を志す学生さんや金融関係のお仕事を請けたいと考えておられるWeb制作会社さん向けに役に立つ記事をと注文を受けておりまして……。先ほど荒木社長がおっしゃった技術的な信用力というのを具体的にお聞きしてもよろしいでしょうか。

荒木 技術上の信用力に限定して言えば、当社の担当するバックエンド部分に関して言えばやはりセキュリティ面は重要になってくるでしょう。詳細は企業秘密のため控えさせていただきますが(笑)、非常に多くのエンドユーザー様のお客様の個人情報、金融資産を管理するシステムである以上、ほぼ考えられる範囲でのセキュリティ対策が実施されています。そもそも規制業種であるため、非常に高度な水準をクリアできなければ金融庁の許可が下りません。
この特集記事を読んでくださっている方はフロントエンドに関わられている方が多いと思いますが、手前どもバックエンドのチームと一緒になってセキュリティに関する勉強をし続けて頂ける制作会社さんでないと、一緒にお仕事をさせていただくのは難しい面もあるかと思います。

榎 そうですね、私たちフロントエンドも常にセキュリティに関する高レベルの理解を有していないとバックエンドのチームと会話が成り立たないのは事実だと思います。また、コーポレートサイトのように重要なデータベースに連結していないWebサイトであっても、万が一にも侵入・改ざんされれば、金融系の企業にとっては信用上致命的な問題になりかねません。こういった部分ではフロントエンドの目線でのセキュリティ対策も重要になってくると思います。

荒木 昨年某大手証券会社さんに納品させていただいた静的サイトジェネレータのコーポレートサイトなどがまさにそうでしたね。バックエンドとフロントエンドが共に高いレベルの専門家として意見をぶつけ合って最高水準のソリューションを提供していることが、金融機関さんに評価されている一つのポイントと言えるかもしれません。

榎 ところで、フロントエンドのチームがコンプライアンスを守るチームかどうかはどうやって見分けられているのでしょうか。例えば当社を選んでいただいた際にはどのような点を見ておられたのでしょうか(笑)。

荒木 榎社長がロースクールを出ておられるという点で……と申し上げたいところなのですが、残念ながら最初にお会いした際にはその事を知りませんでしたので別の面になります(笑)。確かに法令や各種ルールに関する知識は重要ですが、先ほど申し上げた「誠実であること、コミュニケーションが取れること、勤勉であること」が最も評価したポイントではないでしょうか。私自身もビジネスをさせていただくに際して最も重視していることでもあります。

榎 先ほど荒木社長は「良いフロントエンドチームを探してもなかなか「これは!」と思う会社さんが見つからなかった」とおっしゃいましたが、誠実で、コミュニケーションがとれて、勤勉なWeb制作会社さんが少なかったのでしょうか?

荒木 あくまで私の経験上という非常に少ないサンプルのなかでのお話になりますが、そういったWeb制作会社さんはやはり少ないのではないでしょうか。例えば一つの典型例ですと、よくフロントエンドの企業さんが大手企業さんのロゴマークを使ったり、お名前を使ったりしながら実績をアピールされてきたりしますが、一般的に言って大手企業さんのロゴマーク使用許可を取ることは非常にハードルが高いですし、金融系の企業の場合、特にセキュリティがからんできますから、実績としてWebサイトや紙媒体に掲出することはもちろん、場合によっては取引先として企業名を出すことも許可されないことが多々あります。Web制作会社さんのコンプラアンスに対する考え方や勉強されているかどうかなどはお会いしてお打ち合わせをさせていただければ大体見えてくると思います。

榎 確かに当社も多くの大手企業さんのWebサイトでは実績としての掲出許可が出にくいですね。Web制作会社にもコンプライアンスを学び実践する姿勢が大事になってくるということですね。

荒木 はい、そうですね。Web制作会社さんだけではなく、手前どもバックエンド側も学び続けないといけないと日々自らに言い聞かせております。

金融業界の背景とナレッジ

榎 少し目線を広げまして、業界の流れといいますか背景を理解しておくことも重要になってきたと思います。最近の金融系の企業さんを取り巻く環境についてはどう見ておられますか?

荒木 そうですね、これはFinTechの台頭も少なからず影響があると思いますが、金融業の装置産業化が加速度的に進んでいるような気がします。勿論、伝統的な金融業、対面業務も絶対的には必要であることは間違いないことですが、地殻変動に近い非常に大きな業界の変容を感じます。

榎 具体的にはどのようなことでしょう? これは私どものようなフロントエンドチームにとっても重要なキーワードになるので是非お伺いしたいところです。

荒木 これまで続いてきた世界的な低金利競争は一服しつつあるようにも見えますが、とりわけ日本の長期にわたる低金利政策は、地域金融機関を始めとする預金金融機関の収益を大きく圧迫してきました。一方で、低金利にも関わらず資金需要は期待したほどの伸びを見せておらず、更には資金の運用環境も非常に厳しくなり、収益悪化に向けた下方スパイラルが加速してきているように思います。

榎 最近のニュースなどでも良く目にしますが、金融機関の経営環境はそれほど厳しい状況なのでしょうか。そのあたりの打開策に関してはどのようにお考えでしょうか。

荒木 監督官庁が提示する解決策のひとつとしては新たなビジネスモデルの構築、例えばFinTech企業との協業、子会社化等をあげているようです。一方で、先日の報道にもありましたが合併・統合を超えた連携、例えばSBIホールディングスが島根銀行と資本業務提携を行うとか、野村ホールディングスが山陰合同銀行と金融商品仲介業務分野で包括提携を発表するなど、業界でも驚くような大胆な再編が進んでいます。もちろんですが、その再編のキーワードのひとつは、やはりITということになると思います。

榎 そうなると金融業界にはピンチとチャンスが混在しているイメージですね。それは私達の業界とっても同じように感じます。その激変をチャンスに変えていく、そのためには業界動向にアンテナを張りつつ、必要とされる技術力、ノウハウを身に着けておく必要があるということでしょうか。今、地方銀行をメインにお話しいただきましたが、その背景には今後の日本の大きな課題でもある地方創生ですとか、少子高齢化問題なども影響しているのでしょうか。

荒木 ご指摘の通りだと思います。昨今のメディアでも騒がれましたが、例えば年金2000万円問題ですとか、保険商品のノルマに関する強引な営業など、賛否はありますが、若い方が将来を見据えて金融を捉え直している気がします。一方で、金融資産を保有している世代は高齢者層であり、ややもするとFinTechって何? というギャップが存在します。となると、これからの資産形成を考える若い方に向けては、如何に安価に、安全で、同時にUI/UXで差別化を実現できる金融サービス、ひいてはシステムインフラが必須になるということです。同時に暗号通貨での流出事件等、セキュリティを含めた高度な技術力は必要不可欠となります。

榎 なるほど。少子高齢化が避けられない現在、これは金融サービスのみならず、どのようなユーザーに対しても私たちが肝に銘じないといけない潮流ですね。日々進化する技術を常にキャッチアップしながら、守らなければならないルール、業界慣行にも目を配らないといけないということですね。

荒木 そう思います。本当に基本的なことですが、世界的にも金融業界の変化の流れは非常に早くなってきています。今の現状を悲観的に捉えるより、個人的には、むしろ大きなビジネスチャンスにつながると考えています。私が証券業界に身をおいた頃、パソコンを利用している人は限られた一部の人でした。もちろんですが、インターネットもスマホ等は存在していません。ネット証券がスタートした時も、業界では懐疑的に見られていましたが、今では個人投資家の殆どが利用していますよね。まさかコンビニで現金を引き出すことができることなど想像もできませんでした。それが当たり前の世界になり、今やGAFAに代表されるプラットフォーマーが業界の秩序を大きく変えようとしています。

榎 そうですよね。デジタル・トランスフォーメーションは既にビジネスの大前提で、世間で言うところのソサイエティ5.0の世界が現実的に視野に入ってきていることは肌感覚でもわかります。ここには各国のガバナンスの問題などクリアしなければならない課題もありますが、潮流として流れを変えることはできそうもないですよね。

荒木 ご指摘のとおりだと思います。その一方で、世界的にSDGsの流れが加速していますが、これは国内の金融業界でも当然のこととして受け止められ始めており、クラウドファンドを例にあげれば金融庁、国土交通省も然るべき方針を打ち出しています。それだけクラウドファンド事業への関心が高まってきているとも言えるのではないでしょうか。

仕事に取り組む姿勢が大切

榎 先程、SDGsのお話がありましたが、金融庁、国土交通省はどのような方針を打ち出しているのでしょうか?

荒木 私もその世界の専門家ではないのですが(笑)、金融庁の例で言えば、ビジネスモデルの持続性を検証する、そこでサスティナブルでないと判断されると行政処分が出るなど、数年までは考えられないことが起きています。また、金融に絡む問題を解決するために、理念経営を重視する体制など、本来の企業であれば当たり前のことですが、それを金融機関に求めるようになるようです。

榎 理念経営ですか? なるほど。その考え方は、私達の仕事に取り組む姿勢にも共通することですよね? 御社も理念経営には拘っておられると伺っていますが。

荒木 それは御社も同じですよね(笑)。最後は「人」につきますが、御社の仕事への取り組みにも理念を感じています。だからこそ安心して金融システムという、ある意味では社会インフラをご一緒して構築できる大切なパートナーであると思うのです。これからも今のスタンスでご一緒できれば嬉しいです。

榎 ありがとうございます。やはりお客様と同じ目線でお仕事を進めていくこと、ここが重要だということですね。そのお客様の信頼を勝ち取り続けられる会社として、これからも宜しく願いします。

荒木 幸男 YUKIO ARAKI

中央大学法学部卒業 中央大学大学院戦略経営研究科修了(MBA)、日本勧業角丸証券株式会社(現 みずほ証券)に入社後、リテール、プロップトレード、調査、経営企画部門を歴任し、1999年証券会社向けにディーリングやトレーディング業務用などの自社開発パッケージソフトを開発・販売する株式会社インタートレード創業、2004年に東証マザーズに上場させる。2010年、同社より事業譲渡を受けて株式会社エー・ソリューションズ創業・現在に至る。






榎 崇斗 TAKATO ENOKI

関西大学法学部卒業、関西大学大学院公法学専攻博士課程前期課程修了(国際法学修士)、関西学院大学法科大学院司法研究科修了(法務博士)、Web制作会社に就職後、コールセンター企業の取締役を経て、2012年Web制作会社であるtaneCREATIVE株式会社を創業、2014年外国人向け飲食店紹介サイトを運営する株式会社EDOPONを創業、2018年都内の不動産仲介を専門とする株式会社リライフの社外取締役に就任しリーテックの開発を担当している。